同じ歌を歌う二人の歌手に見る、『歌唱スタイル』の違い
今回はちょっと講師らしく真面目にいっちゃいますよーだ。さて前回の時点では、同じ歌を歌っても、ジャズボーカルだと感じる歌と、そうでない歌の大きな違いは『歌唱スタイル』にある!!と一席ぶったところで終わったんですよね。今回はこの『歌唱スタイル』って何よ?に迫ります!
前回のブログ、『ジャズボーカルって?③』をご覧いただいた皆様は
「ジャズの歌を歌っている人はジャズボーカリストだ」という≪あるあるイメージ≫はあり得ない、ということも既にお気づきになっているのではないでしょうか?
『歌唱スタイル』とは、あらゆるジャンルの歌を歌う上でも不可欠な『歌の土台』の部分です。この土台は目で見る事ができませんが、皆様に音源を聴いていただいた時のように、違いは聴いて感じる事ができます。つまり皆様は、それぞれの歌い手の「こういう風に歌いたい」という意思を感じ取ったのですね。
【今日のワンポイント】
スタイルがない歌なんて、クリ○プの入ってないコーヒーみたいなものだ(古っ)
絵画の『スタイル』になぞらえてみる。
目に見えるものの代表として、絵画になぞらえてみるともっと分かり易いかもしれません。ルノワールやモネのような『印象派』とサルヴァドール・ダリのような『シュールレアリスム派』の絵を比較した時、専門的なことは分からないけど、同じ絵画でもスタイルの違いが感じられますね。
例えば同じ『リンゴ』を描くにしても、こういう風に描きたい、こういうもの(こと)を表現したい、という画家の意思や目指そうとしている主義がキャンバスを通して感じられます。私達は、絵画鑑賞する時はただ単に絵を見ているのではなく、そんな部分も含めて鑑賞しているのですね。
そう考えると、スタイルを持たない作品を想像できますか?画家達は先輩の絵を見て学び、必ず何らかの影響を受けています。(だから美術館で『印象派展』が成立するんですよね)スタイルが感じられない絵は、そこに作品の意図や芸術としての深淵さを感じる事は難しいでしょうし、そういった意味では、ゾウが曲芸で描いた絵とさほど変わらない、ということになってしまいます。
様々な分野に共通する事ですが、スタイルというのは、誰かがあるスタイルを試行錯誤の後に生み出し(大抵その人は『○○の父』とか『○○の開祖』などと呼ばれる)、それを支持した次の世代が発展させ…というふうに伝統的に受け継がれてきたものなのです。
その道を選んだ人は、先人が築いたスタイルを踏まえて、時には遵守し、時には伝統に抗いながら、葛藤の中で独自の道を切り開いていく…それが『スタイル』なのです。あっ、なんかエラソーなこと言っちゃった。でも、もちろんジャズ(ボーカル)のたかだか100年程の比較的新しい歴史の中でもそういった事が起きていますよ〜!
ミュージカル唱法と、ジャズ唱法 真逆の価値観
話を音楽に戻しましょう。前回音源をアップした、明らかにタイプが違う2人の歌手ですが、前者のジャネット・マクドナルドの歌唱スタイルは、クラシックオペラに端を発したミュージカル唱法であり、後者のビリー・ホリデイの歌唱スタイル、この唱法こそがジャズ唱法なのであります。
ところで、この2種類の歌唱スタイルはどのように定義されるのでしょう?
まず、ミュージカル唱法の特徴から挙げてみましょう。
①(オペラ歌手的な)美声であること
②常に最高のコンディションで、同じ歌を(聴衆の記憶通りに)寸分違わず正確に歌う
③(広いホールに響き渡るような)豊かな声量と広い声域が不可欠
④上の①、②、③のような資質を用いてダイナミックに情熱的に歌い上げる
…などが挙げられます。現代のポップス歌手の条件に共通しているところもありますね。
ところがジャズ唱法の特徴は、
①いわゆる『美声』でなくても良い
(美声でも良いに越したことは無いが、そこに価値を置いていない)
②予定されたものより、その場のアドリブを重視する
(同じ歌でも歌う度に違う感じになることを求める)
③声量が無くても、声域は別に広くなくても自分の声の長所を生かした歌を歌えばそれがカッコイイ
(マイクロフォン技術の発展のお陰もある)
④クールがカッコイイ(大げさに歌い上げない)
という、ミュージカル唱法とは真逆の価値観を持つ歌唱スタイルなのであります。
そして、上記①~④に関しては、ミュージカル唱法とジャズ唱法の比較として挙げたのですが、他にもジャズの歌唱スタイルを決定的に定義するものとして、
⑤ボーカリストが(バンドと同様に)ジャズのリズムを感じて歌っている
ということがあります。
実は、これがジャズの歌唱スタイルの中で何をおいても一番重要な条件なのであります。
それは、何故かと申しますと…ヒントはこの人~!!次回に続きます。